Ancient future

vol.14【脳:共鳴しうるもの】Written by Shiryu


 前回ハンドドラムを叩くというのは生来の喜びだという話をしました。
 これは自分の中で共鳴するものがあるからそのように感じるのだと思います。「こ
れいいよ!」と勧められても、共鳴するものがなければやりはじめないでしょうし、
やっても面白くないでしょう。
 紫龍の場合、誰に勧められたわけでもありません、vol.1で「ハンドドラムという
『言葉』を偶然にも知ったのが、日経新聞の土曜版だったと思うんですが、某男性料
理研究家がハンドドラムを教わり始めたって話をしていて(中略)で、何だか知らな
いけど心のどこかが『おっ!』っと思ったんですね。それと、自分で小説を書いてる
んですが、ネタ探しに色んな本を読んでいて(中略)心理療法士のロバート・L・フ
リードマンが書いた『ドラミング〜リズムで癒す心とからだ』という本。読んでみる
と、ここでもハンドドラムが取り上げられていて、『おっ!』っと思ったんですね」
と書いたとおりです。この「おっ!」と思った瞬間、おそらくは紫龍の脳は共鳴して
いたんでしょうねぇ。
 ハンドドラムは遡るとシュメールの浮き彫り(BC.2500年頃)にその形を見ること
ができるという話をしましたが、ハンドドラムは世界各地で見ることができます。そ
れはハンドドラムが世界的に同時に発生したことと、どこかで生まれて広まっていっ
たことの二つの可能性を考えさせます。そのことを考えるとハンドドラムは脳の基本
的・普遍的な特徴から生まれてきたのではなかろうかという気がしてきます。共鳴で
きる生来の喜びであるということは、私たちが世界を理解する基礎となる神経学的な
特徴から生まれてきたということではないのでしょうか?
 もう少し分かりやすく説明するために、世界各地の神話が明確かつ一様に似ている
理由について触れてみたいと思います。ジョゼフ・キャンベル(比較神話学者
(米)。ジョージ・ルーカスが大学でキャンベルの授業をうけて大いに感動し、その
英雄伝説の基本構造を『スター・ウォーズ』3部作にそっくり適用して大成功を収めた
ことでも知られています)らの神話研究によれば、あらゆる文化、あらゆる年代にお
いて、処女懐胎、世界を滅ぼす洪水、神々から盗んだ火、死者の島、楽園からの追
放、巨大な鯨や蛇に呑み込まれた人、死んだ英雄の復活などの神話的モチーフが、何
度も繰り返して登場しているといいます。こうした物語は、テーマ、細部、趣旨など
において驚くほどの類似を示すことが珍しくありません。
 類似の一部は文化の伝播によって説明ができるでしょう。複数の文化の間で神話の
テーマや象徴が貸借され、それぞれの文化に適した脚色がなされることは珍しくあり
ません。それでも、全ての謎が解決されるわけではありません。ある種の物語が全く
異なる環境に暮らす人々の目に魅力的に映るのは何故なのでしょうか? 神話が持つ
普遍的な力は、何に由来するのでしょうか?
 カール・ユング(精神医学者、分析心理学の創始者(スイス))は神話とは、象徴
的に表現された元型(アーキタイプ)であると主張しました。アーキタイプとは一人
一人の人間の心の奥底に普遍的に存在する、古代から受け継がれてきた心的内容のこ
とです。ジョゼフ・キャンベルも神話を、私たちの心の基本的な構成要素が表現され
たものとして理解しました。その例として彼があげたのが、シュメールのジッグラ
ト、マヤのピラミッド、階段型の仏教寺院など世界各地に分布する古代建造物でし
た。彼はお互い相手の存在さえ知らない古代の建築家たちが、非常によく似た建造物
を設計したことは、彼らの心の深層構造、もしくは元型の影響として説明するのが最
も自然であると主張しました。元型の解釈は、地勢、文化的要請、土着の植物や動物
の特徴など、多くの因子の影響を受けながら、徐々に形成されていったに違いありま
せん。それでも、本質的な形態と概念は、驚くほどの類似性を保っていました、いや
変わることができなかったのです。何故ならこれらは人の心の普遍的な特徴から生ま
れるものであるからです。キャンベルは言いました「神話の中に見いだされる精神の
力は、われわれの生と一体化して、時代を超えて共有されている。神話は、幾千年の
時間を生き抜いてきた人類の英知の象徴なのだ」。
 ユングが考えたような元型が実在するか否かにかかわらず人類の神話が、脳の基本
的・普遍的な特徴から生まれてきたということは間違いないといえるでしょう。神話
の力と権威が、あらゆる時代、あらゆる土地の人々によって認められ、彼らを苦しめ
る実存的な不安を軽減しているのは、神話の基礎が、人という生物が共有しうる神経
学的過程にあるからだといいます。
 ハンドドラムの説明の補足として神話を持ち出して、中には唐突に感じた方もい
らっしゃったかもしれないが、音と神話は無関係ではないのです。その昔、人間は音
が世界の始まりにあたって存在し言葉の形式をとる大自然の要素であると考えていま
した。音が重要な役割を果たした世界創造の伝説はたくさんあります。音(ここでは
特にドラムの音)と神話は分かちがたく、両者の共通点は、脳の基本的・普遍的な特
徴から生まれてきたという点にあると思われます。

 続きは次回。

(10/27/2004)


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